聖光見聞録 Seiko-Kenbun-roku

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聖光通信「夢中になったもの」学院長より【聖光見聞録977】

投稿者: Shizuoka-Seiko on 20/08/11 10:51

私が虫(昆虫)にこだわるようになったのはいつ頃だっただろうか。幼い頃、近所の材木置き場の 広場に遊びに行ったとき、キチキチキチ...と鳴きながら?飛んでいくバッタに驚きを憶えたことを思い出す。小学校の頃は、コオロギに凝った。いくつもの広口のガラス瓶を飼育箱代わりにして、いろいろなコオロギを飼育した。そのとき、エンマコオロギ(コロコロリーと鳴く大型のコオロギ)の鳴き方には少なくとも2種類の鳴き方があり、それを発見したときには、大いに感動した。小学校の先生に報告したが、ほとんど相手にされず、それでも、悦に入っている自分がいた。しかし、マツムシ、スズムシなど、他のコオロギ科の鳴き方を区別することはできなかった。また、梅雨になる頃には、遠くの雑木林に出かけ、カブトムシやクワガタムシを捕まえに行った。この木には何々クワガタが見つかる、あの木には全く見つからない、植物の図鑑をひもときながら、夕方遅くまで、友人と一緒に採 集に行った。友人とは、どうでもいいことで、時々言い争いになることがあった。例えば、このハナムグリは、シラホシハナムグリだ、いや、シロテンハナムグリだ、どちらも引き下がらず、図書館に行って、大きな昆虫図鑑に決着してもらうことも度々あった。
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中学、高校時代には、一旦昆虫熱が下がるが、大学に入ってからぶり返した。それは、同じ教室(研究室)にチョウに夢中になっていたオーバードクターがいたからだ。研究の合間に、展翅をしている 彼に話しかけたのが始まりで、その後はあちらこちらで夢中でチョウを捕まえ、自分も負けずと展翅箱をつくっていた。展翅箱には約50種のチョウが集まった頃、卒業を迎えた。展翅箱は記念に教室 (研究室)に置いてきた(20年以上後、大学の耐震補強工事が始まるからどうするか尋ねられたので、処分をお願いした。今思えばもったいなかった)。チョウに夢中になっていた夏、田舎の従兄弟 の家に遊びに行った。うるさいくらいに鳴いているセミの声を聞きながら、従兄弟は言った。
「ツクツクホウシの鳴き声には2種類あるって知ってる?今鳴いているやつはaタイプ、さっき鳴いていたやつはbタイプ、...。」 数日、彼の家に泊まり、チョウを捕りながら、このツクツクホウシの鳴き声のレッスンを受けた。ところが、違いがさっぱりわからない。大学を卒業した後は、釣りに固執した。小学校の頃から釣りは好きだったが、中高の同級生の中に、夢中になっている男がいて、連れていかれていくうちに、私も嵌った。それと同時に虫の熱も冷めた。それを再燃させたのは、私の長男だ。彼が小学校の頃、キリギリスの仲間が好きで、捕まえてきては、それを飼育し始めた。その頃からホームセンターで売っていた、チープなアクリルケースを買い求め、それを飼育箱にして、彼なりの工夫を施し、飼育を始めた。キリギリスの仲間の多くは肉 食であるものが多く、それに気がつくまで、彼は多くの虫を餓死させた。しかし、夏の夜鳴く(キリギリスは昼間)虫の音色に、子供と私はうっとりと、妻はうるさいと思って聞いていた。


家族でキャンプ場に行くようになると、そこで偶然、子供はラミーカミキリを見つけた。その美しさに、彼は驚き、そこから、カミキリムシ集めに転向した(もちろん私も)。その頃から、デジタルカメラというものが世の中に出始め、安価なものを彼に与え、家で飼うことはやめにして、写真でとるようになった。二人で嫁にねだって、大きな昆虫図鑑を買ってもらった。図鑑を見ながら、夏は毎日のように、写真に写っているカミキリムシを検索し、ファイリングしていた。インターネットの回線が我が家 にも引かれ、子供は良くカミキリムシについて、図鑑ではなく、インターネットで調べるようになった。その頃、ふと、ツクツクホウシが思い出された。インターネットを使って調べてみると、確かに、 2種類の鳴き方があり、その鳴き声を聞くことができた。ところが、何度聞いても区別できない。妻には、キリギリスの鳴き声が雑音にしか聞こえないように、私にもツクツクホウシは向いていない、いずれもっと良い音で聞くことができるようになったらもう一度試してみようと思い諦めた。
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子供が虫を卒業する頃、私の虫の熱も自然と冷めていった。あるとき突然、子供が、「俺、来年結婚する。そうすると、もう家族で旅行できなくなるかもしれない。最後に家族みんなで旅に出よう。」という提案をしてきた。「どこへ行きたい?」という問いかけに、「キャンプ場」と即座に答えを返してきた。そしてその夏、家族4人で、久しぶりに山梨にあるキャンプ場へ3泊4日の旅に出た。彼が子供の頃、あそこへ行った、何を食べた、など、昔を懐かしく思いながら時間を過ごしていたとき、キャンプ場の近くの温泉のまわりで、「親父、見つけた。ラミーカミキリ。」と叫んだ。20年ぐらい前になるだろうか、彼は同じ場所でラミーカミキリを見つけ、興奮していた姿が思い出された。おまけに、最後の晩に、これも子供がこだわっていたオニクワガタを見つけた。そんなこんなで、懐かしい時間は、 あっという間に過ぎ去った。
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夢中になった趣味はいくつかある。しかし、そんなに多くはない。その夢中になったことのほんのわずかが、私の人生を変えてきたと思う。子供の頃から、または、大人になってから、ある時期こだわってきたものが、自分の思い出を豊かに彩ってくれている。そして、振り返ると懐かしさが私の胸を熱くする。誰かが変だと思うかもしれない。でも自分の人生じゃないか。いつか何かにこだわることをプライドに変えることができると信じている。それが私たちの人生を豊かなものに変えてくれると思う。ツクツクホウシもそのうちに取り組みたいと決意を新たにこの文を終える。
投稿:学院長